情報学教育とは
2003年,わが国の学習指導要領下で,はじめて「情報」を取り扱う教科が高等学校に設置された。情報科教育のあけぼのである。当時,中学校においても技術・家庭科(技術分野)において情報を取り扱っており,小学校においても,コンピューター教室が整備されている最中の状況であった。
このような中,情報教育自体は初等中等教育において実施されていたものの,当時の情報教育が「単なるコンピューター操作や利用の範囲」(4)にとどまっていたことは否定できない。
一方,情報学教育を取り扱う学術研究組織である情報学教育研究会においては,当時,情報科教育法研究会(2002年創設)を標榜していた。それが,2009年,現在の情報学教育研究会に改称し,装い新たにすることになる。
このことについて,当時,代表(現・名誉代表)を務めていた松原伸一先生は,「社会の変化に対応するため」(3)と記している。
この「社会の変化」について,いくつかのキーワードから紐解いていきたい。
研究対象
「情報科教育法研究会」の研究対象は情報科教育であり,教科教育の性質を強く持っていた。情報学教育研究会においては,情報科教育に限定せずに,情報を取り扱う教育全体を研究対象とした。そのため,初等中等教育のみならず,就学前教育,高等教育,さらには生涯学習までをも包含する。
文理融合
当時,すでに情報科教育の中で2代目となる学習指導要領(2013年度高等学校入学生より学年進行にて開始)が公示されていた。初代となる学習指導要領(2003年度高等学校入学生より学年進行にて開始)では,普通教科情報科に「情報A」,「情報B」,「情報C」の3科目が設置され,選択必履修とされた。2代目となる共通教科情報科においては,「社会と情報」,「情報の科学」の2科目が設置され,選択必履修となった。この共通教科情報科がはじまるにあたり,松原は「この際に重要なことは,文理融合の情報学を内容とする新たな視点に立った教育」(1)であると述べている。
諸学問の成果を還元
情報学教育においては,「ネットワーク社会において新たに出現する種々の課題」(6)に対応できる能力の育成が必須である。その範囲は,「自然科学のみならず,人文科学や社会科学等の学際的で広範な知識をベース」(6)にすることが求められており,この能力の育成に関する論文は,情報学教育研究会の会員らにより,さまざまな見地から発表しているところである。
次に,
2010年,松原は情報科教育のコア・フレームワーク(IS-CF Ver.4.0j)を発表した。これによると,情報学教育には「情報を科学する」,「情報を活用する」,「情報を吟味する」の3つの視点があるとする。また,2013年には情報学教育のコア・フレームワーク(Ver.6.0j)を発表している。
参考文献
- 松原伸一:まえがき,情報学教育研究,2010,情報学教育研究会,2010.
- 松原伸一:クラウド型知識基盤社会における情報科教育の新しいステージ 文理融合の情報学共通教育,情報学教育研究,2010,情報学教育研究会,2010.
- 松原伸一:情報学教育と情報科教育,情報学教育研究,2011,情報学教育研究会,2011.
- 松原伸一:情報学教育と情報科教育(Ver.2),情報学教育研究,2012,情報学教育研究会,2012.
- 松原伸一:情報学教育と情報科教育(Ver.3),情報学教育研究,2013,情報学教育研究会,2013.
- 横山成彦,松原伸一:情報学教育における情報安全と情報人権の一貫した初等中等教育の提案,日本情報科教育学会第2回研究会,2013,日本情報科教育学会,2013.
- 松原伸一:情報学教育と情報科教育(Ver.4),情報学教育研究,2014,情報学教育研究会,2014.
- 松原伸一:情報学教育と情報科教育(Ver.5),情報学教育研究,2015,情報学教育研究会,2015.
- 松原伸一:情報学教育と情報科教育(Ver.6),情報学教育研究,2016,情報学教育研究会,2016.