静かに進んでいた新しい取り組み

情報学教育研究会の代表,ならびに情報学教育研究所の所長という立場で日々の会務や所務に向き合っていると,目の前のタスクに追われながらも,長い時間をかけなければ育たない企画が,確かに存在する。

いま,まさにそうした企画が日の目をみようとしている。

今回は,関係者の許諾の下,情報学教育研究会の代表,情報学教育研究所の所長という立場から見た,その企画の一端を紹介したい。

目次

代表,所長として感じていること

研究会の代表という役割は,単にイベントや会務の取りまとめに留まらない。研究会が扱う領域の社会的要請は年々強くなり,成果の発信方法,現場への還元方法,そして継続性の担保が,より厳しく問われるようになっている。これは研究所の所長という立場でも同様で,研究の価値を研究の内側だけで完結させないための仕掛けが必要になる。現場に届く形をどう設計するか,さまざまな条件を検討した上で,はじめて,取り組みは社会に根付いていくと考えている。

その意味で,今回の新しい展開は,研究会と研究所の活動を次の段階へ押し上げる可能性を持っていると考える。

産学研連携という心強さ

今回の企画は,情報学教育研究会がコアとなり,産学研連携のもとで進めてきた。企業だけでも,研究会だけでも,研究所だけでも,成立しにくい種類の企画がある。現場の課題設定,制度や組織の制約の理解,セキュリティや運用の実務感,長期的な品質保証,そして稼働に向けた形づくり。これらをひとつの組織の論理だけで整えていくのは難しい。こうしたとき,異なる立場の人間が同じテーブルにつき,合意形成を繰り返しながら進める必要がある。

この産学研連携の取り組みの過程では,すれ違いも生じていた。産学研それぞれが社会的な環境の違いから,言葉の中のニュアンスや「言わずとも」な部分に語弊が生じるほか,優先順位に差が生じる。しかし,こうした「違い」を認識することは,同じテーブルについたメンバーにとって,今回の企画にとって,よい経験になったのではないかと感じる。

今回,1年以上にわたり検討と調査,議論を進めてきた。形式的な会議の回数を稼ぐような進め方ではない。既存手法の比較,想定利用者の行動分析,そして何より,関係者間での率直で活発な議論。こうした積み重ねの上に,ようやく「これなら出せる」という地点に到達しつつある。

関係者のみなさまには,まずは謝辞を述べたい。多忙の中で時間を割いてくださった方々,立場の違いを越えて議論を詰めてくださった方々。形式的な挨拶ではなく,1年以上にわたる活動を見守ってきた実感としての感謝である。

多くの人に使ってもらうための前提

新しい取り組みを立ち上げるとき,つい作り手の満足度を優先してしまいがちである。複雑で高度であるほど,作る側は達成感を得やすいが,その複雑さは利用者にとっては,かえってコストになってしまう。研究の現場でも,教育の現場でも,企業の現場でも,手間が増える仕組みは定着しない。

だからこそ,今回の新たな取り組みは,多くの人に活用いただけることを最上位の要件として置いている。ここで言う「多くの人」とは,単に利用者数が多い,という意味ではない。専門性の異なる人々が,同じ水準で迷わず使えること。導入の判断に必要な情報が揃っていること。運用の負担が過大にならないこと。トラブル時の対応が想定されていること。こうした条件が満たされてはじめて,利用は広がり,価値が社会に定着する。

もちろん,理想を言うのは簡単である。だが,産学研連携の議論を長期に続けてきた理由は,まさにこの「定着する条件」を満たすためであった。リリースすること自体が目的ではない。使われ続けることが目的である。

情報セキュリティの向上という狙い

今回の取り組みが目指す価値の中心には,情報セキュリティの向上がある。ここで言う情報セキュリティは,強い暗号や難解な専門用語の話だけを指さない。現場における「うっかり」を減らし,事故が起きた際の影響を抑える状態を考えた,運用の安全性である。

教育や研究の現場では,個人情報を含む資料,研究データ,学外との共同作業に伴うファイルのやり取りなど,守るべき情報が増え続けている。一方で,現場の時間は増えない。だからこそ,安全な運用を「がんばり」ではなく「仕組み」で支える必要がある。情報セキュリティ事故の多くは,悪意ある高度な攻撃よりも,日常の手順の綻びから起こることの方が多いように感じる。ここを封じこんでしまうことは,事故の減少につながる。

この点で,今回の取り組みが狙うのは,運用を前提とした情報セキュリティ向上である。安心して情報を扱える。個々人の注意力だけに依存しない仕組みである。こうした方向性は,組織にとっても個人にとっても,長期的な負担を減らしながら安全性を引き上げる道になる。

まもなく日の目を見る,ということ

ここまでで新しい取り組みの片鱗が垣間見れたかもしれない。いま言えるのは,この取り組みが,まもなく日の目を見る,ということである。具体的な内容については,正式に各団体が出すプレスリリースをご覧いただきたい。

これからへの期待

新しい取り組みが公開された瞬間がゴールではない。ここからがスタートである。運用の知見を蓄積し,必要に応じて見直す。そのサイクルを回せるかどうかが,社会に根付くかどうかを決めると考えている。

新しい企画の価値を多くの方に届けられるように,丁寧に育てていきたい。

執筆者

横山 成彦のアバター 横山 成彦 情報学教育研究会 代表

情報学教育研究会 代表,情報学教育研究所 所長。大阪学院大学高等学校 情報管理室 室長/株式会社SFC。修士(教育学)。専門は情報学教育,情報教育,情報科教育,学校教育の情報化。

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